映画『一献の系譜』の石井かほり監督をハワイでインタビュー

ハワイ国際映画祭といえば、年に春と秋の2回行なわれているイベント。世界各国、主にアジアからの映画を上映するイベントです。昨年秋には、広末涼子さんもハワイ入りしました。なんと、2014年には、韓流スターの「カン・ドンウォン」も来たんですよ〜!

今月9日に、春のハワイ国際映画祭でホノルルのドール・キャナリーシアターにて上映された日本の映画『一献の系譜』(洋題‘The Genealogy of Sake) を観てきました。監督は、東京出身の若手女性監督「石井かほり」さん。映画は、石川県能登半島で日本酒を作る杜氏に焦点を当てたものです。彼女をインタビューさせていただくきっかけとなったのは、石川県に住む友人からのメッセージでした。彼女は北陸地方を中心にアナウンサーとして長く活動しており、以前石井監督をインタビューした経緯がありました。

石井かほり監督

 

また、私自身以前「ジョイ・オブ・サケ」という、ハワイからスタートした日本酒のイベントに携わったことがあり、日本酒に関しては知識がまったくないということはありませんでした。

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ではインタビュー内容を掲載します。

Q. 映画製作を始めたきっかけは何ですか?

A. 表現方法を探していて、表現手段として映像が一番適していると思いました。大学4年生の時に、地方に世界中からアーチストを呼んで開く「大地の芸術祭」にボランティアとして参加した時に出会った、美大の映像学科の人たちが自分たちで映画を製作。その時に、映画は大手企業が作るだけではなく、自分で表現して作っていくことができるんだな、と知りました。私がそれを目指した頃は、機材もコンパクトになってきた時代だったため、民間人でも手に入れやすい値段とサイズになってきました。映像制作が表現方法として身近なものになってきた時代でした。文章で書いていたことが、文章で読むより映像で見た方が早いのではないかと気づき、それで撮り方を学ぼうと思い始めたんです。

Q. 映画製作の専門学校に行ったのですか?

A. 大学卒業後は中央省庁で4年間働いていましたが、やっぱり自分がやりたいことはこれだなと思い、夜間で脚本の専門学校に1年、映像製作の学校に1年通いました。その時に手掛けた作品がデビュー作となり、プロの道に進みました。

Q. ハワイについてどう思いますか?

A. 2回目ですが、今回来て、ハワイを嫌いな人はいないんだろうな、と思いました。人間が作り出しているインフラ以前のもの、気候ですね。私がハワイを意識し出してから海はずっと綺麗。気候の圧倒的な良さ。今回ハワイに上陸して、海を見て、ハワイってまぶしい!と思いました。

Q. そのハワイで、自分の映画が上映されることについてどう思いますか?

A. 大変光栄です。以前、着物染めの職人さんについてのデビュー作が、LAの日系人の老人ホームで上映されたことがありました。その時に感じたことは、ルーツを日本に持ちながら自分の地を踏んだことがないような方々がたくさんいる中で、日本の魂のような作品に触れるという機会を喜んでくださった。ハワイも日本との歴史があり、日系の方がたくさんいらっしゃるので、そういう方々に少しでもアプローチできたらといいなと思う。そこが他の国での上映とは少し違う所です。

Q. 『一献の系譜』はお酒に関する映画ですが、どういったところに傾注して作っていきましたか?特に見てほしいところはどこですか?

A. 石川県の能登を舞台にした映画はこれで2作目ですが、石川県の人間ではない私がなぜ撮らなければないのかということになるわけですが、それは「そこに日本があるから」と私は感じているからです。今回撮影させてもらった数人の杜氏さんたちは能登で育った方達ですが、最終的には日本の酒造りの杜氏さんの象徴でなくてはいけないと思うし、それはさらに突き詰めると日本の”ものづくり”のあるべき姿だと思っています。杜氏さんの個人の名前は出していますが、普遍的なものが残るようにした。つまり、酒造会社のPRではないということです。

さらに、お酒や食べ物も、グルメ家などが味覚の探求をしますが、あくまでもそれは主観によるもの。それを概念・理念に、風土の歴史を含めて作り手の思いを知っていくことで、一過性の味覚のブームではないところに日本酒が位置付いてくれればいいと思います。

観客に話しかけられた石井監督

 

Q. 女性の杜氏もいるそうですが。杜氏は男性社会だと思うのですが、女性が入っていくというのは男性側から見てどのような感じだったのでしょうか?

A. 私自身、主な撮影現場に入った所は蔵人含めて女性が誰もいない場所でした。私がカメラを持ってロケハンでは入って行った時、すごい違和感を感じました。空気を乱すというか、異分子として扱われると思っていた。現在では全国に30名ほどの女性杜氏がおり、蔵人も増えてきています。そうは言ってもまだ男性社会なので、そこに立ち向かっていく女性の方々はとってもタフだと思います。同性から見ても、とても大変な仕事だと思う。

Q. 次の映画はすでに構想中ですか?

A. ドキュメンタリーは自分の思いだけではどうにもならないところがあるので、撮るぞ!という時にはいろんな扉がパンパンパンって開くんです。つまり、前に進む以外に選択肢がないような状況になるので、そういう状況が来るか来ないかは自分の思いだけではどうにもならない。自分を超えた何かに「ここに向かって行きなさい」と言われているタイミングが来ないと始まりません。

舞台挨拶をする石井かほり監督

 

映画を観させていただきましたが、日本酒業界のPRではなく、杜氏という職業、生き方、日本のものづくりの象徴を見ることができました。映画上映は日本ではすでに終了しましたが、来年あたりDVD化の予定です。みなさんにも是非みていただきたい映画です。

公式サイトをご覧ください。

 

監督・プロデューサー : 石井 かほり
聖心女子大学文学部哲学科卒。文部科学省、文化庁にて非常勤公務員として勤めながら、映画制作の専門学校に通い、在学中の作品、短編映画『おばあちゃま ごめんね』が大阪阿倍野ヒューマンドキュメンタリー映画祭にて入賞。後、日本で二人しかいない日本最古の型染めの技法・木版染めの職人の仕事と生きざまを記録した映画『めぐる』の製作を機に役所を退省。1年半を経て、映画『めぐる』を完成。全国にて上映を実現した後、アメリカ、フィリピン、中国、カナダ、タイなど世界で上映。
羽田澄子監督に師事。その後、ドラマやネット、モバイルフォンドラマの演出を手掛ける。
2011年に石川県珠洲市に伝わる揚げ浜式製塩法で塩づくりに励む人々の姿を追った長編ドキュメンタリー映画『ひとにぎりの塩』(セブ国際ドキュメンタリー映画祭2013最優秀撮影賞受賞)を完成させ、ドキュメンタリー映画では異例のシネマコンプレックスでの劇場上映を果たす。「映画制作を通じ、地域の魅力を発信する」を目標に、塩田体験ツアーを実施。観客を能登に誘導するなど精力的に活動したことがきっかけとなり、再び能登の文化を映画づくりで照らすことを目的に、2012年『一献の系譜』製作が開始。2015年本作が完成。

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